「機関紙連合通信社」は労働組合や市民団体の新聞編集向けに記事を配信しています

    インタビュー〈「安倍政治」を検証〉(1)/不真面目だった改憲姿勢/東京都立大学教授 木村草太さん

     安倍首相が辞任を表明した。この際、2012年から続いた第2次安倍政権の功罪をしっかり検証しておく必要がある。最初に、首相がこだわり続けたはずの改憲が7年8カ月もかけてできなかった問題を取り上げる。木村草太東京都立大学教授に話を聞いた。

     

    ●強い意志が欠如

     

     改憲が実現できなかったのは、安倍さんの姿勢が基本的に不真面目だったためでしょう。本気で改憲を目指す強い意志がなく、だから実現に向けた戦略も立ててこなかったのだと思います。

     まず、改憲の目標が不明確でした。2012年に自民党としての改憲草案をまとめたのに、13年に出してきたのは発議要件(96条)の緩和(両院の3分の2の賛成を2分の1に)でした。これは「裏口入学」などの批判を浴びて断念するに至りました。

     次が14~15年の集団的自衛権の行使をめぐる議論です。安保法を制定しながら、憲法改正については触れませんでした。それまで憲法上不可能とされていた集団的自衛権の行使を可能にするのであれば、当然、この時に改憲の必要性を主張すべきでした。

     そして3点目が、17年に打ち出した、憲法への自衛隊の明記です。合憲性を確保するためという説明でしたが、それまで政府は自衛隊を合憲といってきたのです。明らかに従来の解釈と矛盾しています。

     このように目標が一定しておらず、とても真面目に改憲を目指していたとは言えません。

     

    ●幅広い論議も避けて

     

     本気で憲法を変えたいなら、反対している人や、改憲への意欲が弱い人たちに分かってもらう丁寧な議論が求められます。

     安倍さんの考えに近い、コアな人たちだけを相手にしていては無理です。考え方の違う人への説明を含め、広く呼び掛ける姿勢が必要なのに、それが見られませんでした。

     日本では、改憲発議や国民投票で3分の2の賛成が必要です。そうであれば、野党第1党の意見を聞かなくてはなりません。交渉やすり合わせ、調整などの努力が求められます。実際には、民主党から立憲民主党に至る野党第1党を無視し、逆に攻撃する姿勢が目立っていたように思います。

     

    ●口先パフォーマンス

     

     つまり「改憲をやり遂げる」という主張は口先だけ。これまで「改憲、改憲」と言ってきたのは、改憲派内部の仲間意識の醸成が目的だったのでしょう。「改憲する」といえば喜ぶ人たちが相手だったのです。

     次の首相が誰になるにせよ、こうした姿勢が変わらなければ、改憲は難しいでしょうね。