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    〈インタビュー/「安倍政治」を検証〉(2)/貧困層には冷たいまなざし/NPO法人もやい理事長 大西連さん

     第2次安倍政権が2012年12月に誕生した時、生活保護費の1割削減を宣言したことが強烈に印象に残っています。その後、最後のセーフティーネットである生活保護費を13年、15年、18年と相次いでカットしてきました。この7年8カ月の間に年間約1500億円削ったことになります。

     12年の野党時代には、お笑い芸人の母親が生活保護を利用していることが話題になり、自民党の片山さつき衆院議員らが国会で取り上げるなどしてバッシング。政権復帰後の法改正(13年)では、親族による扶養義務が強化され、当事者が生活保護を利用する際のハードルを高めてしまいました。

     安倍政権の7年8カ月を見ると、生活保護に厳しく、貧困層に対する冷たいまなざしを感じます。

     

    ●生活保護を遠ざける

     

     一方で、生活困窮者支援や子どもの貧困対策で法整備をしており、何もやってこなかったわけではありません。給付型の奨学金制度もつくりました。もちろん、貧困をなくそうと頑張った運動の反映もありますが、いずれの政策も不十分といえます。

     例えば、困窮者支援法で創設された小口資金の貸し付け制度。コロナ禍の中で今、約100万人もの利用があります。生活保護へ行く前の段階で手当てするというのが建前で、返済の見通しが立つ人には役立つ制度でしょう。しかし、生活再建の展望がない人にまで借金をさせるのがいいのかどうかです。

     本来は、生活保護を利用した方がいいのに「それだけは避けたい」と人々に思わせている状況が背景にあるのではないでしょうか。

     給付型奨学金についても対象者はごく一部で、不十分です。

     

    ●経済成長に役立つか?

     

     なぜ、こういうことになるのかと言えば、安倍政権の対策が「経済成長に資するかどうか」を基準にしているからです。権利保障をベースとした政策・対策になっていないのです。

     「1億総活躍社会」といいますが、女性や高齢者の中で頑張れる人は応援するけど、頑張れない人については考慮しないという姿勢です。だから、貧困対策で支援を契機に救われる人がいる一方、さまざまな事情から働けなかったり、頑張れなかったりする人々は見捨てられます。この人たちは結局、生活保護費を削られただけで終わります。

     支援が必要な人々の中に分断を持ち込む施策なのです。

     

    ●あくまで自助が基本

     

     安倍政権の下、社会保障を権利として位置付けず、「自助」を基本に、「公助」を遠ざける政治が続きました。今度、首相になると見られている菅さんも自助を基本にする考えを語っています。

     いつまで自己責任や自助努力ばかりを強調するのでしょうか。

     貧困対策を考えるなら、まず公助が必要です。生活が安定して初めて努力や個々の頑張りができるのです。自助努力だけを優先する対策では何も解決できません。