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    〈グローバル化の陰で〉(16)/子どもの遠隔教育に落とし穴/IT大企業が個人情報収集

     新型コロナウイルス感染は収束しておらず、世界の感染者は約4千万人、死者は100万人を超えた。そんな中、各国で情報技術(IT)を用いた遠隔教育や遠隔医療、テレワークが広がり、巨大IT企業は軒並み業績を伸ばしている。だが、便利さの裏には落とし穴もある。

     

    ●コロナ禍利用し実験

     

     「ショック・ドクトリン(惨事便乗型資本主義)」の著者であるジャーナリストのナオミ・クラインは、コロナ禍における巨大IT企業による個人や自治体の支配を「スクリーン・ニューディール」と呼び警鐘を鳴らす。

     実際に何が起きているのか。

     コロナ感染者が激増していた5月、米ニューヨーク州ではアンドリュー・クオモ州知事が議会休会中に、コロナ対策として遠隔授業・医療などをインターネットで効率的に行うプロジェクトの特別委員会を立ち上げた。座長は元グーグルの最高経営責任者(CEO)だったエリック・シュミット氏。ビル・ゲイツ氏らIT企業関係者も参画した。「危機」の中、人々の不安と新たな秩序を求める気持ちにつけこみ、選挙で選ばれていない人々を登用し、教育という重要な公共サービス分野に関わらせたことになる。

     これに対し「民主主義のプロセス軽視だ」と、市民や保護者が疑問の声を上げている。というのも、シュミット氏は「ロックダウンの時期は巨大な実験期間であり、子どもたちがどのように遠隔学習をするかの貴重なデータを収集している」と述べたからだ。

     

    ●グーグルなどを提訴

     

     2月には、遠隔学習のためのグーグルシステムで、同社が個人情報を不正に収集しているとして、ニューメキシコ州当局から訴えられた。

     教育用のシステムでは、子どもの個人情報が通常のアプリよりも厳格に守られ、保護者の同意なしに情報を収集できない規約になっている。しかし、実際には13歳以下の子どもに関する個人情報(GPSによる位置情報、インターネットの閲覧履歴、検索で使った単語、連絡先リスト、パスワードなど)を、グーグルが勝手に取得していたことが問題にされたのだ。

     米国で巨大IT企業による子どもらのプライバシー侵害は大きな社会問題の一つ。昨年9月にも、ユーチューブ上で児童のプライバシーを侵害したとして、グーグルに1億7千万円の罰金を科す判決も出された。既に米国では多くの訴訟が起きている。

     

    ●日本は大丈夫か?

     

     巨大IT企業による個人のデータ収集については、日本でもようやく問題視され始めた。遠隔教育のツールとしてグーグルシステムを導入する現場も多く、企業にとってはそのデータが大きな価値を持つ。一方、保護者の多くはこうした「実験」に子どもが参加させられていることにあまり自覚的ではないようだ。

     米国のようなプライバシー侵害の恐れを考えると、日本でも規制当局だけでなく、保護者やNGOなど市民社会の側からも、IT大企業の運用状況をチェックすることが必要だろう。(アジア太平洋資料センター共同代表 内田聖子)