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    公共サービスが危ない/官製ワープア大阪集会/コロナ禍で疲弊する職員たち

     「なくそう!官製ワーキングプア」の集会が11月7日、大阪市内で開かれ、100人を超える参加者が集った。コロナ禍の下で、市民に不可欠な行政サービスを提供しているエッセンシャルワーカーに焦点を当てた。劣悪な労働条件でも市民に寄り添い、懸命に働く労働者の姿が浮き彫りになった。

     

    〈写真〉守口市でも組合員の学童指導員4人が雇い止めに。原告で守口指導員労組の中尾光江書記長は「ワーキングプアの〃プア〃だけが残った」と語った。(11月7日、大阪市内)

     

    (上)コロナ禍で相談窓口混乱/大阪弁護士会が調査

     公共サービスの申請や手続きに欠かせない、地方自治体の相談窓口。新型コロナウイルス感染症の影響で、業務は激増し、〃しんどい〃との声が上がっている。

     大阪弁護士会は2014年から、府内各自治体の生活困窮者自立支援窓口とともに、法律相談の事業に取り組んできた。感染症の影響で、相談が殺到し、自治体の窓口で働く相談員の負担が増えたという。報告した小久保哲郎弁護士は「特に4月以降、相談員がしんどそうだった。ある区ではベテランの相談員が一斉に3人も退職。行政窓口の崩壊が起き始めているのではないかと思った」

     弁護士会では6月にアンケート調査を行い、28の自治体と職員100人から回答を得た。新規相談件数は前年度に比べ、全自治体平均で5倍増加。住居確保給付金の申請件数はそれまで一桁だったが、政令市平均で4月は合計313件、5月は1673件と激増していた。

     相談員の賃金は正職員の平均23・5万円に対し、会計年度任用職員などの非正規職員は16・3万円で、20万円未満が8割。非正規の6割が仕事内容に賃金や待遇が見合っていないと答え、退職を考えたことがある人は4割に上った。体も気持ちも疲れ果てたと思うと答えた人は正規・非正規問わず75%で、燃え尽き症候群の傾向も見られた。

     弁護士会では9月、市民生活を最前線で支える自治体窓口の「相談崩壊」を緊急に防ぐため、アンケート結果を踏まえた要望書を国や自治体に提出。増員や待遇改善、医療従事者と同様の慰労金の支給などを求めた。

     小久保弁護士は「福祉行政の現場相談員の待遇は非常に悪い。専門性も必要なのに非正規化されている。社会福祉主事の資格を持った公務員が担う生活保護のケースワーク業務を外部委託化する動きが本格化し、法改正される可能性も高い」と述べ、官製ワーキングプアが増えるのではと危機感をあらわにした。

     

    (中)手取りは月10万円/困窮進む「婦人相談員」

     戦後、売春防止法を根拠に設けられた婦人相談員。現在は配偶者暴力防止法(DV防止法)やストーカー規制法などにも関わり、女性へのさまざまな支援を行っている。中国・四国地方の自治体で婦人相談員を務める藍野美佳さんはこう発言した。

     「困難を解決するのはあくまでも当事者。自己決定権を尊重しながら、責任を持った支援が必要で、相談員は伴走者だ。命や人生をかけて相談されるので内容も重い。DVのケースは危険も伴う」

     藍野さんは現在、週30時間の会計年度任用職員のパートタイマー。手取りは月10万円程度のため、トリプルワークをこなす。別の相談機関のほか、焼肉店で深夜まで働いていたが、感染症の影響で店は休業した。「社会福祉協議会の臨時貸付金を借りた。行政で働いて、困窮者の話を聞いている私がなぜ、困窮者なのか」と自問した。

     コロナ禍で仕事の量は増えた。疲労困憊の状態で約1カ月も働き続けた結果、自動車事故を起こした。電柱にぶつかった助手席側の車体は跡形もなく、藍野さんは入院した。それでも仕事は辞められないという。

     「特別定額給付金は世帯主に申請書が届くが、DVの被害者は、住民票を移さずに逃げている状態だ。世帯申請でなくても給付を受けられるように、婦人相談員が意見書を作成する業務も増えた。申請がきっかけで深刻な被害が発覚するなど、新たな支援も増えている」と危惧した。

     相談が増加しても、相談員へのケアはなく、3年未満で辞める人が多いという。「相談に来る人はみな同じではなく、一人一人ケースも異なり、マニュアルはない。元気に自立する姿を見られるやりがいのある仕事なのに、見合った賃金ではない」と訴えた。

     

    (下)職員も利用者も不安に/学童保育の民間委託

     新型コロナ感染症拡大防止のためとして突然の一斉休校が実施される中、子どもたちの居場所を維持し、働く保護者を支えてきたのが学童保育だ。

     堺市は学童を株式会社と市の外郭団体に委託している。休校中は朝から開けるよう市が要望したが、契約上は昼以降の開所だ。新たな予算編成が困難だったため、午前中は学校職員が対応し、乗り切ったという。

     堺学童保育指導員労組の谷口文美委員長は「自治体が責任をもって運営しなければ、緊急時に対応できない。コロナ禍で学童保育(の役割)が注目されたが、私たちは1年契約の非常勤の身分だ。委託期間の3年が終了すればどうなるかわからず、働き続けるのが不安」と語った。

     委託に移行する際、労働条件などを尋ねた主任だけが採用を拒否された。委託先の株式会社CLCが団交に応じなかったため、大阪府労働委員会に救済を申し立てたが認められず、中央労働委員会でも覆せなかった。裁判所への提訴も検討中だという。

     谷口委員長は「市は継続雇用が望ましいと言いながら、委託先には採用の自由があるという。それでは学童の継続的な運営はどうなるのか。全国で民間委託の検討が進んでいるが、市町村の責任を持った運営を考えてほしい」と述べ、民間委託の阻止を呼びかけた。

     元主任の女性は「小3の教え子にばったり再会し、『先生はいつ帰ってくるの?』と言われた。戻ってくると約束したのに、果たせていないのがつらい。絶対に負けてはならない闘いだ」と訴えた。