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    労働時評/かつてないコロナ禍との闘い/20年労働運動の回顧と展望

     2020年の労働運動は新型コロナウイルス禍でかつてない取り組みとなった。組合の困難な運動と成果、コロナ後の新たな政治社会の構築を含め労働運動の回顧と展望をまとめた。

     

    ●コロナ禍で荒れる雇用

     

     日本では1月16日に最初のコロナ感染患者が確認された。その後、政府の後手の対策と「GoTo」事業などと相まって12月16日で18万8586人、死者2768人に達している。 

     感染危機は世界的な問題だが、とりわけ日本は賃金、雇用、福祉破壊など新自由主義による規制緩和の影響で事態はより深刻だ。

     休業者(雇用労働者)は10月で143万人に達し、前年同月比で15万人増加。失業者は215万人、解雇者は約7万人に上る。

     労働政策研究・研修機構がまとめたコロナ感染拡大の働く人への影響(5月実施、対象3887人)では、「勤務日数や労働時間の減少」(27%)、「収入減少」(25%)のほか、「解雇や雇い止め」の不安も正規10%、非正規19%に上る。

     連合が3月に行った電話相談では、「コロナを理由に明日から解雇といわれた」と深刻だ。11月には143件のうち、職場のパワハラの相談が目立つ。

     全労連は電話相談を6回行い、11月下旬には224件寄せられ、一方的な労働条件引き下げも目に付く。

     

    ●国の政策を動かした

     

     春闘集会やメーデー、大会などもネット開催を余儀なくされた。その困難を打開しつつ、各界との共闘で成果を上げている。

     政策課題では、雇用調整助成金の改善(助成率引き上げと、上限額8330円を1万5000円に)や全国民一人あたり10万円給付への予算組み替え、フリーランス、学生への支援、家賃補助、PCR検査拡大などを実現させた。医療崩壊とたたかう医労連は共同で医療体制の充実を求めた。

     雇用・賃金確保などで組合も結成。タクシー関係の自交総連は和歌山、東京などで12組合を結成(例年は6組合)、愛知は介護関係の地域ケアユニオンを21分会184人で結成した。沖縄の観光関連、東京でホテル関係のローカルユニオン加盟などもみられる。

     12月19日には東京・日比谷公園などで08年の「年越し派遣村」にちなみ、全労連と市民が「コロナ災害何でも相談会」を実施。31日には反貧困ネットワークが東京などで「年越し大人食堂」を開設する。

     

    ●今年も内部留保増大

     

     賃金劣化と分配構造のゆがみも目立つ。大企業の内部留保はコロナ禍の4~7月期で前年同期より7・6兆円も増え、463・7兆円に増大。労働者の賃金は年間572万円で、前年より13万円も減少した。分配が一層ゆがんだ。

     20春闘の賃上げ率は7年ぶりに2%割れだが、中小労組が奮闘し大手を上回った。最賃は16年ぶりに改定目安が示されなかった。

     21春闘で経団連はコロナ禍の雇用問題を口実に一律ベアを否定し、定昇カットさえ検討している。

     連合は「雇用も賃上げも」を掲げ、「賃上げの流れを止めない」として8年連続で2%程度のベアを提起し、産業間の差異も考慮する。

     全労連なども3年連続で2万5000円以上を提起し、内部留保の国民的還元へ課税を初めて掲げた。

     コロナ禍の下でも、英国やドイツでは賃金、最賃を上げている。劣化する日本の賃金改善へ労組の奮起が求められている。

     

    ●日本的雇用の解体狙う

     

     コロナ禍の下で働き方も労使の大きな争点だ。

     経団連は11月に「新成長戦略」を発表し、業務のオンライン化やリモートワークで「時間・空間にとらわれない柔軟な働き方」「多様で複線的なキャリア」を提起した。

     同時に、年功賃金、終身雇用などの「日本的雇用」を解体し、成果主義の「ジョブ型」雇用を提唱した。さらに「新たな労働時間法制」「解雇の金銭解決」も掲げた。財界の賃金・雇用破壊政策に対して、労働側の集団的ワークルールの確立と集団的労使関係の強化が求められる。

     働き方の改善では連合、全労連とも21春闘でテレワーク、長時間労働の是正、ジェンダー平等などを設定。例年以上に働き方の改善を重視している。

     

    ●新自由主義転換で一致

     

     労働界はコロナ後の社会を見据え、「新自由主義の転換」で足並みがそろう。

     連合の神津里季生会長は「新自由主義は大きな災いをもたらしている」と指摘。命と雇用を守るため、社会の構造変化を提起した。9月の立憲民主、国民民主の合流に際し、新党の理念やめざすべき社会像に「過度な自己責任論、競争万能主義、株主至上主義からの脱却」「貧困問題や巨大企業への富の集中の解決」を明記した。

     全労連も7月の定期大会で「新自由主義から転換し、憲法が生きる職場、社会」へ向け、大企業優先から労働者・中小企業中心への政治・経済・財政への抜本的変革を掲げた。労働界の共同の追求が課題だ。

     

    ●労組と市民、野党の共闘

     

     政治では、安倍首相が突然辞任し、9月に安倍政治を承継する菅政権の誕生で新局面を迎えている。

     連合内では合流新党とからみ、立憲、国民、無所属の「3分裂」もみられる。一方、市民連合は9月に政権交代の政策要望書を5野党2会派に提示した。

     来る総選挙は、新自由主義の暴政阻止が争点。学術会議問題などで「強権政治」「答弁拒否」と批判される菅政権の支持率も当初の70%台から40%台に急落している。労組と市民、野党との共闘で政治変革が求められている。(ジャーナリスト・鹿田勝一)