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    インタビュー/「川崎でヘイトは許さない」/川崎地方自治研究センター理事長 板橋洋一さん

     ヘイトスピーチを禁止する「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」の制定から1年が経過した。全国初の刑事罰付きの条例に期待が高まったものの、施行後も政治活動を装ったヘイトスピーチが繰り返されている。「ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク」は昨年12月、ブックレット「日本第一党の主張〔移民・外国人政策〕ここがおかしい ここがうそ!」を発行。条例の実効性を求めるネット署名も開始した。この運動を支えているのが、自治労川崎市職員労働組合のシンクタンク、川崎地方自治研究センターだ。理事長の板橋洋一さんに話を聞いた。

     

    (上)〃活動するシンクタンク〃

     ――ブックレットの内容は?

     板橋 元になったのは昨夏に作成した市への申し入れ書です。事実と異なるヘイトについて具体的な反論を記したところ、長い文書になってしまった。この反論を市民に知ってもらい、差別問題の啓発につなげようと、ブックレットにまとめました。用語の解説やイラストも入れて親しみやすくしましたから、気軽に手にとって読んでほしいですね。ネットからダウンロードもできます。

     政党の街宣を装い、在日コリアンへのヘイトスピーチを繰り返している日本第一党の主張への反論で構成しています。彼らの活動は今や全国規模。川崎以外の地域でも生かせる、汎用(はんよう)性のあるものを目指しました。ありもしない「在日特権」のデマや外国人の犯罪率、生活保護の準用など、ネット上でも拡散されている間違った情報をただしています。

     ――センターはなぜ外国人問題に関わっているのでしょうか?

     センターは市職労の一機関ですが、労働組合の方針では包括しきれない社会的課題に取り組んできました。在日コリアンの支援もその一つで、30年以上続けています。もちろん、自治体研究の基礎となる財政白書の発行や学者との共同研究も欠かせません。いわば〃活動するシンクタンク〃です。

     背景にあるのは、1971年から約30年続いた革新市政です。伊藤三郎市長(自治労神奈川出身)の在職時は、国際的な人権擁護の観点から外国人の指紋押なつ制度の廃止を求める運動が高まっていました。市は押なつ拒否者を外国人登録法違反で捜査機関に告発しないという方針を全国で初めて表明し、運動の後押しになったのです。

     その流れをくんだ高橋清市長の下では96年、政令指定都市で初めて公務員任用の国籍条項を撤廃しました。当時は駅前に右翼団体の街宣車が全国から30台以上結集しましたが、職員も果敢に立ち向かった。参政権のない外国人の意見反映のため、外国人市民代表者会議も設置されました。

     

    (下)職員組合の運動は重要

     ――ヘイト禁止条例の運用に市の職員も積極的になってほしいという声があります

     電凸(でんとつ)という市役所への電話攻撃などで担当職員が苦しんでいるのは確かです。議会や市民が決定した条例を職員が理解していないということはありません。川崎市をよくしたいという思いは職員も市民と同じ。40年前に多文化共生の総合計画を示したように、市長自らが人権を踏みにじるヘイトに怒り、リーダーシップを発揮すべきでしょう。

     ――市長のトップダウンで変わるのでしょうか?

     本来はかつてのようなボトムアップが必要です。市民からの「おかしい」という声に耳を傾け、市民が考えていることを把握し、職員も考えながら、環境問題などに取り組んできました。

     しかし、今は民間同様に人事評価制度が導入されています。職員に人権擁護の倫理観があっても、目標達成で管理されれば、差別問題に対応するのは担当部署だけで、消極的になってしまう。これでは、政治情勢や歴史と根深く絡み合ったヘイトのような課題の共有は難しい。やはり、ボトムアップの主体となる職員と市民の回路をどう作るかが鍵。革新市政後の30年の空白を埋めるためにも、地域に根差した職員組合の運動は重要です。

     ――板橋さんは生まれも育ちも川崎です

     若いころは在日コリアンの若者に絡まれて殴られたこともありましたね。「なんだ、この野郎」と思いましたが、就職問題一つ取ってみても、彼らが差別され、普通の生活もままならない窮状を知ると、やり場のない怒りやすさんだ気持ちがわかるようになりました。最近、高校の同窓会で、同級生から在日コリアンだと告白されました。友情は変わらないのに、本人はずっと悩んでいたのでしょう。

     川崎には在日コリアンだけでなく、沖縄出身者や80年代以降に来日したニューカマーなど、〃よそ者〃を受け入れてきた土壌があります。肌の色が違う同級生が隣にいる。これが子どもたちの日常です。だからこそ、川崎でヘイトスピーチは許せない。ヘイトスピーチという〃路上の病〃とどう闘うか、市民社会の姿勢が問われています。