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    〈グローバル化の陰で〉(7)/危ない「スーパーシティ」構想/国家戦略特区法の改正案

     政府は今年の通常国会で廃案になった国家戦略特区法改正案について、秋の臨時国会に再度提出し、可決を目指す考えだ。「スーパーシティ」構想を実現するための改正である。
     国家戦略特区は、一言でいえば「安倍政権のお友達優遇」政策だ。地域を限定した大胆な規制緩和や税制面の優遇で民間投資を引き出し、〃世界で一番ビジネスがしやすい環境〃を創出するのが目的。
     規制緩和のメニューは、都市再生、創業、外国人材、観光、医療、介護、保育、雇用、教育、農林水産業、近未来技術と多岐にわたる。森友・加計問題で公正・平等な判断が政治家の圧力によってゆがめられたことは周知の通りだ。

    ●個人情報の利活用へ

     政府の「スーパーシティ構想」は今年2月、竹中平蔵氏を座長とする有識者会議で最終取りまとめが行われ、法案化へ進んだ。人口減少が進む日本各地で、住民の生活や行政サービス、地域における経済活動・産業などあらゆる分野で人工知能(AI)やビッグデータを活用した都市をつくろうというものだ。
     政府はそれを「第4次産業革命を先行的に体現する最先端都市」と説明する。スマホとパソコンが必需品となり、AIは多くの産業・社会の現場で使用される。ネットショッピングなどで私たちが提供する個人情報は、ビッグデータとしてグーグルやアマゾンなどのプラットフォーマーに蓄積され、ビジネスに利用されるという。
     スーパーシティ構想は、自治体の機能やコミュニティーなど住民の生活の全てにこれらの技術を徹底的に埋め込んでいくプランだ。例えば、住民や企業、地域の地理などのデータが街中に設置されたカメラから集められ、それをAIが分析し、車の自動走行や小型無人機(ドローン)による配送が行われ、店舗では現金を使わないキャッシュレス化と無人化が進んでいく。遠隔医療、遠隔教育、ロボット監視、顔認証システムも全面的に導入されていくことになるだろう。

    ●自治体職員も削減に

     しかし、現行法制度には多くの規制がある。その規制を回避するために、法改正という話が持ち上がったのだ。改正案では住民の合意を前提に国の規制を免除できることになっている。社会に必要な規制が一部の政治家や官僚、利害関係者の意向によって壊されていく危険がある。
     この構想では大手IT企業が利益を得る一方、地域経済や住民生活への負の影響がほとんど考慮されていない。例えば、個人データの扱い。行政が管理すべき住民のさまざまな情報(収入や税納付額、保険料など)が一元的にビッグデータとして集積・管理され、金融機関の情報、買い物履歴、ウェブサイトの閲覧履歴、労働時間といった民間の情報も集めることが可能だ。
     すでに起きている人権侵害への対応策が、政府内で十分に議論された形跡はなく、自治体職員も極限まで削減されることになる。IT技術に依存すればするほど、災害時の対応は脆弱(ぜいじゃく)になり、「コミュニティーの力」を弱める恐れがある。

    ●法案審議のチェックを

     法案が通ればモデル都市が選定される。現時点では福島県会津若松市や福岡市が名乗りを上げ、神奈川県藤沢市もやる気を見せる。特区で「成功した」とされれば、他の自治体にも次々に波及していく恐れがある。法規制のなし崩し的な緩和も懸念される。
     まずは臨時国会での審議をチェックする必要がある。(アジア太平洋資料センター共同代表 内田聖子)