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    労働時評/全労連が先行回答にチャレンジ/金属大手の自社型春闘打開へ

     コロナ禍の厳しい2021春闘で全労連が結成32年で初めて、トヨタなど金属大手による共闘軽視と自社型春闘への変質に対し、ストを含む先行回答に挑戦する。春闘再構築に向け、金属大手春闘の特徴と、問題打開の歴史を検証する。

     

    ●全国的ストで春闘先行

     

     全労連などは春闘最大のヤマ場を3月10日に回答、11日をストを含む全国統一行動に設定。連合、トヨタなど金属大手回答より1週間先行した闘争となる。全労連としては初めて。

     黒澤幸一事務局長は、回答先行の理由として「大企業の企業内主義的な春闘を打開し、先行相場の形成・波及を目指すため」「各産別も3月第2週が取り組みやすい」などを挙げ、全国統一ストで闘うと語る。

     産別ではJMITU、医労連、出版労連など12組織が統一回答、全国統一ストに参加。愛労連など各地方労連もスト支援、街頭宣伝などを展開する50万総行動となる。「コロナ禍だからこそ闘い、組合の見える春闘」を目指す全労連・春闘共闘の挑戦が注目される。

     

    ●企業主義化の金属春闘

     

     金属大手は21春闘でも産別・単組自決が目立ち、共闘を生命線とする春闘の変質も指摘される。

     トヨタはベアの有無など要求内容を非公開とし、連合産別から問題視されている。電機連合は昨年に続きベアと、福利厚生などの処遇改善を合算する「妥結の柔軟性」を考慮し、59年間の産別統一闘争が分散化する。基幹労連の三菱重工労組はベアを見送った。

     自動車、電機、基幹労連など5産別でつくる金属労協(JC、現JCM)は1964年に結成。その春闘の特徴は、経済整合性賃金(生計費より経済重視)と「団交重視」「ストなし」「一発・集中回答」で、「JC春闘」と呼ばれた。

     その背景には政官財労による春闘抑制の経緯がある。「管理春闘」と呼ばれ、春闘のパターンセッター再検討が狙い。国労や私鉄など交運ゼネストによる大幅賃上げの翌年、インフレ下の75春闘で鉄鋼、造船、電機、自動車の4単産が集中回答で〃前年マイナス〃のJC相場を形成。春闘を「高位平準化」から「低位平準化」へと変質させた。

     その結果、75春闘の賃上げ率は前年の32・9%から13・1%へと低下。さらに「ストなし春闘」の分岐点ともなり、75春闘の半日以上のスト件数は1875件で前年から半減し、労組組織率低下へと連動した。

     春闘低迷にはJC内から反省の声も聞かれた。鉄鋼労連元幹部は88年に「『経済整合性論』は例外的なものだ。労働組合は本来の積極的な分配闘争に立ち戻って行動をしないと運動の生命力が弱くなっていく」と警鐘を鳴らした。

     労働団体ではJC春闘に反発して、83春闘に総評、同盟など労働4団体がJC回答前の先行に挑戦。86春闘でも私鉄、ゼンセン、電力など23産別が第3次産業共闘を結成し奮闘した。

     金属大手は「春闘を制するものは労働運動を制する」と労働戦線再編も推進し、連合結成となる。

     

    ●連合も春闘改革論議

     

     連合は金属大手の回答に対し、相場形成・波及を含めて論議を重ねている。

     95年には春闘改革としてパターンセッターの見直しを提起。(1)最大のヤマ場に好業績でパワーのある各産別の単組グループが先行相場を形成(2)不況産業・企業を中核に置く戦略を見直し、回答・妥結を遅らせる(3)妥結水準の公開(4)産別統一闘争とナショナルセンターの役割(5)ストを背景とする闘いと組織拡大――などだ。しかし改革論は十分に生かされずに終わった。

     連合はナショナルセンターとして05年ごろから分配構造の是正の旗を振り始めた。背景には03年の連合評価委員会の提言がある。運動改革では「大企業中心の連合運動の是正」「企業別組合中心から産別、ナショナルセンター、地域組織の強化」などを提言し連合に影響を与えた。

     04年には「金属大手の回答に左右されない春闘」を目指して、UIゼンセン同盟(現UAゼンセン)やJAMなど18産別が中小共闘を結成。07年には有志共闘8産別がJCに先行し成果を上げた。09年からは春闘相場の形成・波及の強化へ、部門別の五つの共闘を新設。16年から大手追随・依存からの「構造転換春闘」を展開し、成果を上げている。

     リード役は鉄鋼から電機、トヨタへと変化した。

     

    ●全労連回答は連合上回る

     

     全労連の賃金闘争は、生計費に基づく大幅賃上げ要求とストを背景にした全国統一闘争が特徴である。

     結成2年目の91春闘で「管理春闘」の枠組み打破へ、初めて「大企業の横暴に対する社会的包囲と大企業労働者との連帯」を提起。92春闘から大企業の内部留保還元へ「ビクトリーマップ」を作り、96春闘では連合の組合員を含む「『総対話』と共同」を開始した。

     大企業総行動では42年の歴史を持つトヨタ総行動や日立茨城総行動、マツダ広島総行動も展開した。

     一方、全労連の春闘先行については相場の形成・波及ができるのかとの声も聞かれる。結成から31年間の春闘結果を検証すると、15年と19年を除き、連合集計を額、率ともに150~3千円上回っている。

     全労連は多数派を目指した運動を重視。大企業の内部留保還元や全国一律最賃と大幅引き上げ、女性、非正規の処遇改善で世論を形成し、全ての働く者の利益を守るナショナルセンターの役割を強めている。

     春闘で大企業労使の社会的責任を問う行動はナショナルセンターの枠を越えた春闘再生への共通の課題。全労連の新たな挑戦が注目される。(鹿田勝一)