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    〈働く現場から〉チョコを売るフィリピン女性/ジャーナリスト 東海林智

     「ワタシ チガウヨ」

     「いくらなんだよ。ハウマッチ?」

     仕事を終え、自宅に帰る道すがら。男女の争うような声が聞こえてきた。もめていたのは、アジア系の外国人女性と日本人のサラリーマン。

     

    ●慎重に介入すると…

     

     私が暮らす東京・高田馬場ではあまり見かけないやりとりだが、近隣の新宿・歌舞伎町や大久保近辺では、何度か目撃したことがある。男が買春を試みて女性に声をかけているのだ。

     歩く速度を遅くして、聞き耳を立て、2人をよく見ると、幼い顔立ちの女性は20歳前後か、マスクからのぞく目は今にも涙が吹き出しそうだ。手には「コロナで仕事がなく生活に困っています。チョコレート500円」と書かれたボードを持ち、かわいく袋詰めにされたブルーとピンクの包み紙のチョコレートがたくさん入った紙袋を二つ持っていた。

     大まかな事情を〃推測〃し、このままじゃまずいなと思い、男を逆上させないように、慎重に介入した。財布を手に、女性に「あ、チョコ売ってんの。一つもらおうかな」と話しかけ、2人の間に体を入れた。すると、彼女は「一つ500円。二つ味があります。オイシイデスヨ」と答えたので、「じゃもらう。どっちの味がいいかな」と話し始めると、男はそそくさと姿を消した。

     

    ●コロナで仕事無く

     

     腕っ節に自信があるわけではないので、正直ドキドキだったが、男が戻って来ないかを確認する意味も含めて、しばし彼女と世間話をした。暴力を振るわなくても、「路上で物を売っている外国人がいる」と警察に告げ口をする者もいるので、そのときの対応も考え20分ほど、現場に2人でいた。

     彼女の話によれば、2年前にフィリピンから日本に来たという。日本語学校に通いながら、ハウスキーパーのバイトをしているという。たどたどしくはあっても、日本語で意思疎通がちゃんとできる。新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから、週に3回あった仕事は、ステイホームの影響で徐々に減り、今年の2月には完全に仕事が入らなくなった。この間、別の仕事も探した。飲食店やコンビニなど外国人が働けそうな現場に足を運んだが、全く仕事がない状態だという。

     わずかな蓄えを取り崩し、同胞やフードバンクなど頼れる手段をフルに使って生活してきたが、どうにもならなくなり、チョコを売りに街に立った初日の出来事だった。

     

    ●同胞同士の互助会?

     

     この話を大まかにフェイスブックに投稿したところ、都内各地で「チョコを売るフィリピン人にあった」との書き込みがあった。どういうシステムなのかは分からないが、同胞同士の「互助会」のような組織があり、チョコを仕入れて販売しているのかも知れない。今後も取材を続けたいと思う。

     いずれにせよ、祖国に帰る飛行機も飛ばず、仕事もない、生活苦に陥る外国人への政府の施策はほとんどない中での〃共助〃ではないのか。そんな彼女たちへの「ハウマッチ」だ。情けなくてしょうがない。

     安全を確認し、追加のチョコを買って帰ろうとすると、彼女は胸の前で手を組んで、「ありがとうございました。あなたが幸せでありますように」と祈ってくれた。涙が出た。

     彼ら彼女らは決して流民ではない。この国で働いている人たちである。

     

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    コメント: 3
    • #1

      まさ (日曜日, 28 8月 2022 19:19)

      少女をお金で買おうとした彼、東南アジア等に旅行に行き、金の力で女性を買う人。
      こういう日本人がとても多い事をとても残念に思います。
      台湾人の友達が言っていましたが、台湾でも売春目的の日本人男性はとても多く、日本人なんて台湾に来て欲しくないと思っている人も多いそうです。
      とても考えさせられる記事です。
      書いてくださってありがとうございました。
      日本で働き暮らす外国人の方々に、良いイメージを持ってもらえる様な国でありたいですね。

    • #2

      ゆか (日曜日, 19 11月 2023 02:28)

      私も最近京都市内でチョコレートをフィリピンから来たという女性から購入しました。
      私も同じように少し話をして、彼女が介護士になるため勉強していることを知りました。
      あなたにたくさんの幸せが訪れますようにと。
      全く同じです。
      彼女が悪い日本人に出会わないで欲しい、と心から願いました。

    • #3

      スバル (土曜日, 16 12月 2023 05:01)

      自分もこの前、京都河原町付近や今年の1月に地元の最寄り駅でチョコを売ってたフィリピン人女性が寄って来てカードを見せてくれました。

      自分は英語が話せるので少し会話しました。なんだか可哀想な気持ちになりました。どうやら留学中で日本で働いても生活費が足りず困窮してるので仕方なくチョコを売ってるみたいですね。自分は1000円のを2個買ってあげました。

      「オ兄サン優シイ、アリガトウ貴方に幸セが訪レマスヨウニ。」って言われたので「頑張ってね、君なら出来るよ。」って言い少しだけ英語で世間話してから握手からの拳を上下に上げてから拳同士をぶつけて手を顔に寄せる様に指を後ろに動かして別れました。帰ってからチョコを食べましたが元から知ってたスイスやドイツのチョコでしたので美味しく頂きました。あのお菓子は有名なデパートやモールで同じ様なチョコを売ってる店を見付けました。きちんと話したところ事実みたいですよ。

      中には本当にお菓子を売ってる留学生も居るみたいですからあんな詐欺があると本当の留学生が勘違いされて可哀想です。早く彼女達が目標を達成出来る様に祈りたいです。