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    人権侵害あれば事業の中止を/国際NGOが日本企業に/ミャンマー軍との関係を調査

     ミャンマーで国軍による民衆の弾圧・虐殺がとまらない。同国への最大援助国の一つである日本の経済協力のあり方が問われる中、国際人権NGOのヒューマンライツ・ナウ(HRN)が4月2日、「ミャンマーの人権侵害と日本企業の関与と責任」と題する報告書を発表した。現地での提携事業による利益が国軍に流れている場合は「一切の事業展開を取りやめるべきだ」と訴えている。

     2011年の民政移管後も国軍は同国の政治・経済に大きな影響力を維持してきた。ロヒンギャなど少数民族に対する殺人や強姦などの人権侵害について国際司法裁判所は昨年1月、ジェノサイド防止に向けた暫定措置命令を出している。国連人権理事会が指名した独立調査団は19年の報告書で、同国に投資する海外企業に対して、国軍とつながるビジネスから手を引くよう提言していた。

     

    ●問われる日本企業

     

     HRNの報告書は、個別企業名を挙げて、国軍に関連する事業への参加・協力の状況を分析。事業展開に関わって人権侵害の事実があるかの調査と改善を企業に求め、是正できないならば事業撤退するよう求めている。

     実名を挙げたのは、東芝や小松製作所、キリンホールディングス、TASAKI、住友商事など。

     報告書によれば、東芝は、マンダレー北部のアッパーイェワ水力発電ダム開発プロジェクトに参加している。ダム建設をめぐり、同プロジェクトを警備する国軍と現地の反対勢力が衝突。国軍によって周辺住民の強制退去や殺人などの人権侵害が起きていると指摘する。東芝は市民グループの質問に答えて「人権を尊重する責任がある」と述べたものの、具体的な行動はしていないという。

     ヤンゴンに高級商業施設を建設する、大規模な不動産の開発・運営事業には、国際協力銀行(JBIC)や東京建物、ホテルオークラ、みずほ銀行、三井住友銀行などが参加している。商業施設は国軍が保有する土地に建設されており、土地の賃料が国軍の「防衛口座」に振り込まれている疑惑が浮上。JBICは今年2月、防衛口座への振り込みを認めたという。しかし、参加企業は「現地法令を順守している」と言い続け、是正に背を向けているもよう。

     一方、キリンホールディングスは、2月のクーデターを受けて国軍系企業との業務提携を解消すると発表した。同社は、クーデターについて「当社のビジネス規範や人権方針に根底から反するもの」と批判している。

     

    ●国連の指導原則を重視

     

     HRNが重視するのは、国連が定めた「ビジネスと人権に関する指導原則」だ。同原則に拘束力はないものの、企業による人権侵害の防止に向けた対策を規定している。

     具体的には投資先について、人権への負の影響の特定や予防、軽減などを実施するよう求め、人権侵害の救済に取り組むことが必要としている。

     ミャンマーの事例についてもHRNは、この原則を踏まえて(1)人権侵害に加担しないこと(2)権利保護のための基準策定(3)第三者機関による調査と監査(4)国軍と現地企業との関係や資金の流れの可視化(5)人権侵害の改善(6)人権侵害の是正が不可能なら事業からの撤退(7)国軍への利益の流れが確認された場合は一切の事業展開の中止――を提言した。