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    労災被害者に損害賠償請求/あんしん財団/女性職員が「反訴」申し立て

     業務上の理由で精神疾患を患い、労災認定された労働者に対し、「労働保険審査会の判断を誤らせた」などとして、使用者が損害賠償を請求するという、前代未聞の裁判が行われている。使用者は、中小企業の労働災害の共済を運営する「一般財団法人あんしん財団」。請求された女性職員2人が5月17日、財団の提訴自体が違法とする「反訴」を提起した。

     

    ●労災制度が崩される

     

     あんしん財団は、20年前に汚職事件で問題になったKSDから改組した。約10年前に業績が悪化し、「経営改革」を進めていた。

     訴状などによると、2人の女性職員は2013年に事務職から営業職に職種を変更され、遠隔地への異動命令や過大なノルマなどから精神疾患を患い休職している。その後、2人に対し、それぞれの所管の労働基準監督署がほぼ同じ時期に労災を認定した。2人は現在、外出もままならない状態で、休職・療養しているという。

     財団は今年3月、国に対し「労災認定は誤り」だとして損害賠償を求めるとともに、2人の職員も被告に据え「信用性の極めて乏しい陳述書を提出して、労働保険審査会の判断を誤らせた」などとして、各462万円を請求する裁判を起こした。請求額は、労災発生により保険料が引き上がった分の推計額の累積。併せて、財団は既に労災認定の取り消しを求める行政訴訟も起こしている。

     職員の1人は財団による提訴を知らされ「恐怖感を覚え、何も考えられない状態になった。財団からの郵便物には恐怖感があり、自分で開封できず、家族が開封し内容を聞いている」との手記を公表。もう1人も、財団からの面談の要請が執ように行われているとし、別に住む両親の家に財団職員が突然訪れるなど、安心して療養できない実情をつづった。

     国の過労死防止対策推進協議会委員である工藤祥子さん(神奈川過労死等を考える家族の会代表)は、提訴時の会見に同席し「2人が心身ともに大変な苦痛を感じたであろうことを思うと、あんしん財団に怒りを覚える。このようなことが行われれば被害救済と社会復帰を支える労災制度そのものが崩されてしまう」と、強い懸念を表明した。

     

    ●「提訴自体が違法」

     

     そもそも労災認定の取り消しを求める裁判自体「極めて異例」(原告側代理人の嶋崎量弁護士)で、過去に数例あるが門前払いされているという。

     3月に財団が行った被災者への損害賠償裁判についても、嶋崎氏は「なぜ被災者個人を訴えるのか。(仮に国の決定が誤っていたと主張するにしても)国から回収すればいいだけで、わざわざ労災被災者に損害賠償を請求する意味が分からない。嫌がらせ目的の提訴でしかないということで反訴を行った。こういう訴訟をすること自体が違法行為という意味だ」と説明した。

     2人の職員は東京管理職ユニオンの組合員。2017年に支部を結成した。現在数人の職員が加入している。解雇や降格処分に対する訴訟、組合への支配介入についての救済申し立てなど、現在も係争中だ。鈴木剛委員長は財団の提訴をスラップ(嫌がらせ)訴訟だとして、「正当な権利行使への威圧だ。絶対に許せない」と話している。

     

    〈写真〉国の過労死防止対策の委員を務める工藤祥子さんは、休職・療養中の職員の不安に思いを寄せ、あんしん財団の提訴に強い懸念を示した(5月17日、都内)