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    労働時評/転期迎えるけん引役/21春闘総括論議始まる

     コロナ禍の2021春闘は総括シーズンを迎える。連合の5月回答集計で製造業は前年マイナスだが、流通はプラス、中小の奮闘など分散した。共闘と大手組合の役割、パターンセッター再検討などの変化もみられ、総括の論点となる。

     

    ●賃金闘争のけん引役

     

     パターンセッターとは、大規模な賃金闘争で先行して賃金決定を行い、産別内や他産業に影響を与える組合をいう。

     日本では企業別組合の弱点を克服しようと春闘が始まり、産別統一闘争と産別共闘をリードするパターンセッターの役割が重視されてきた。労働社会学者の高木郁朗日本女子大学名誉教授は、米国などの「チャンピオン・バーゲニング方式」を日本に取り入れたと指摘している。

     スタートは1955年。当時の合化労連や私鉄総連など5産別から、電機労連、全国金属などの8単産共闘へと、多数派の運動に発展した。57年には早くも「春闘相場」という新語が誕生。その後、先行高額水準を形成し、後続組合の賃金決定や、人事院勧告、最低賃金、未組織労働者に波及させ、賃金の社会的平準化を進めた。

     闘い方では、「重化学先行」「中核先行」「チャンピオン闘争」を展開した。ピークは74年。国労、私鉄などの交運ゼネストを背景にインフレ下で32・9%(約2・9万円)を獲得。 半日以上のストは3656件で組織も拡大した。年金改善や全国一律最賃制などを掲げる「国民春闘」に発展した。

     

    ●逆転変質の金属春闘

     

     「ドン、狂ったか」といわれた大会がある。74年9月、鉄鋼労連別府大会での宮田義二委員長のあいさつ。それまでの前年プラスだった賃上げを「前年マイナス」に下落させる内容の爆弾発言だった。それ以降、政官財労による春闘抑制体制が敷かれ、「管理春闘」といわれた。

     インフレ下、日経連は「パターンセッターの再検討」と前年プラスアルファの見直しを提起し、政府は賃上げをけん制した。新日鉄、東芝、トヨタ、三菱重工など「八社懇」労使で賃上げ抑制を強めた。

     パターンセッターもそれまでの交運ゼネストを背景とした国労や私鉄から、75、76年に鉄鋼と造船、電機、自動車の金属労協(JC)の4単産集中回答で前年マイナスの相場を形成。春闘を「高位平準化」から「低位平準化」へ変質させ、ストなし春闘、組合組織率の低下にも連動した。

     総評元幹部は「管理春闘」に対し、「賃金の相場決定を資本の側に逆用され、JC方式が総評春闘を去勢し吸収した」と総括。総評は解体の道をたどり、連合結成に至った。

     

    ●連合は5部門共闘重視へ

     

     JC春闘に対して83年には総評、同盟など労働4団体が先行し、86春闘には私鉄、ゼンセン同盟など23産別の第3次産業共闘が先行し成果を上げた。

     連合も95年、パターンセッター見直しを論議。「ヤマ場に好業績でパワーのある産別・単組グループの先行相場形成」「スト実施と組織拡大」を検討した。

     さらに「金属大手の回答に左右されない春闘」を目指して04年にはUIゼンセン同盟、JAMなど18産別が中小共闘を結成。07年には有志共闘8産別がJCに先行し成果を上げた。16年からは「大手追随・準拠からの構造転換春闘」を展開し、中小労組で成果を上げた。

     18春闘からは金属、商業・流通など5部門共闘連絡会議を重視。社会的賃金水準の形成と相場波及を目指している。

     21春闘で連合の回答平均は5347円(1・81%)で昨年比マイナス336円(0・12%減)だ。金属製造業は昨年マイナス205円だが、商業・流通は同プラス136円。パートなど非正規はUAゼンセンが相場形成役を果たしている。

     連合も今春闘では、20数年続いた金属大手回答日の連合会長、事務局長の会見をやめ、5部門共闘の合同会見に変えた。春闘中間まとめでは「部門ごとの社会的波及効果の強化に努めた」としている。

     神津里季生会長は、産業構造や雇用構造の変化を視野に「デフレ打開では特定のパターンセッター(に頼るの)ではなく、それぞれが共闘し相乗効果を発揮した」としつつ、「(相場形成で役割を果たした電機など)先頭のけん引役の強化は重要だ」と表明した。

     この46年間で主導役は鉄鋼、電機、トヨタと変遷。産別・単組自決の下で共闘は崩れ、パターンセッターの機能は低下した。金属労協は今後、春闘と政策、国際活動を検討し、24年に組織改革を行う。

     

    ●春闘再構築への模索

     

     ドイツは「産別パイロット方式」で、組合の強い州で産別労使交渉を行い、妥決結果を全国協約に波及させる。21年はコロナ禍でも金属労組が3月30日、賃上げ2・3%(要求4%)と週休3日も可能とする労働協約を締結した。3月2日から部分的な警告ストを展開した成果である。

     一方、日本ではこの22年間で実質賃金が10%も低下し、スト激減など先進国では異常事態。単組自決でなく、産別統一と共闘、スト権行使が重要だ。

     金属大手の自社型春闘の打開へ向け、全労連が結成32年で初めてストを背景に春闘で先行した。大企業労使の社会的責任を問う挑戦として注目される。

     高木氏は近年、パターンセッターについて輸出依存型産業から内需型産業主導への移行を提唱。雇用構造の変化も踏まえ、最賃などと連動させたナショナルセンター主導の春闘再構築を提言している。(ジャーナリスト・鹿田勝一)