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    過労死ゼロ「ほど遠い」/過労死防止大綱改定案/遺族ら「国際機関の提言反映を」

     3年に1度見直される過労死防止大綱の改定案が5月25日、厚生労働省の会合で提案された。過労死ゼロには「ほど遠い」と深刻な現状認識を示している。過労死家族の会の委員らは、このほど出された世界保健機関(WHO)と国際労働機関(ILO)による調査結果と時間外労働の削減に向けた提言内容の反映を求めた。

     

    ●「悪循環を断ち切れ」

     

     過労死防止対策推進法が2014年に成立して以降、国の対策などを示す過労死防止大綱が閣議決定され、3年ごとに改定している。新大綱は7月に閣議決定する予定だという。

     大綱案は6年間の取り組みを踏まえ、今も過労死が絶えず、特に若者が心身の支障をきたす事例が後を絶たないと指摘。「過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現にはほど遠い」との深刻な現状認識を示している。昨年は脳・心疾患、精神疾患ともに労災請求件数は増加し、認定件数も高止まりしている。

     国の重点対策では、過重労働の疑いがある企業への監督指導の徹底や、国家公務員の超過勤務への指導、地方公務員の過重労働への助言などを列挙。勤務間インターバル(休息時間保障)制度の普及、ハラスメント(嫌がらせ)防止対策と啓発、ILOハラスメント禁止条約の「批准を追求するための継続的かつ持続的な努力を払う」と踏み込んだ。

     そのほか、テレワーク、副業、フリーランスへの相談対応や支援、国が発注する業務で適正な納期を確保する商習慣の適正化も掲げている。

     数値目標には①週労働時間が60時間以上の雇用者の割合を5%以下に(2)勤務間インターバル制度導入企業を15%以上にする(25年まで)(3)年休取得率を70%以上に――などを挙げている。(1)の5%以下の目標は前回と同じ。勤務間インターバルについては目標を5ポイント引き上げた。

     会合では、WHOとILOが発表した長時間労働による健康リスクに関する初の調査結果(5月17日発表)が取り上げられた。同調査は、週55時間以上働く「長時間労働者」は標準的な労働時間と比べ、脳・心疾患のリスクが高いと指摘した。特にコロナ禍での労働時間増を懸念している。

     全国過労死を考える家族の会の寺西笑子代表は「調査結果の週55時間の残業は月65時間の残業になる。現行の過労死ラインである発症前2~6カ月平均80時間を、月65時間に引き下げるべきだ。1時間でも短いと労災認定されないことがある。過労死を生む企業が放置され、健康被害を増やす悪循環が続いてしまう」と要請した。

     労災認定基準の見直しは厚労省内で現在作業中。WHOなどの問題意識を大綱に反映させることには、同省は前向きな姿勢を示したが、認定基準の見直しには直接は言及しなかった。

     

    ●企業文化の見直しを

     

     大綱案は労組にも対策を求めている。労働時間の管理・把握、メンタルヘルス対策、ハラスメント防止策に向けて職場点検を行うとともに、長時間労働の削減、過労死防止の啓発を求めるなど、前回と比べて具体的な記述となっている。

     大手広告代理店で勤務していた娘を過労死で失った高橋幸美さんは、娘の労働実態について、過重な業務で極度の睡眠不足を余儀なくされて心身を疲弊させられたと述べ、勤務間インターバル協定の普及を切望した。労組についても「娘は亡くなる1カ月前、社内の労組に相談していたが、(社内労使は残業上限について)月100時間の特別条項を結んだ。組合員を守る労働組合であってほしい」と発言。長時間労働を生む、日本の企業・職場文化の見直しを求めた。