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    TCSは経営から手を引け/日本コンベヤ労組/現経営陣への退陣要求に抗議

     大型ベルトコンベヤー製造大手、NCホールディングス(NC、東証1部上場)のJAM日本コンベヤ労働組合が、株主であるTCS(東京コンピューターサービス)グループによる現経営陣への退陣要求に、反対を表明している。TCSは株の買い占めで事業を拡大し、買収先の組合つぶしを行ってきた。労組は、長年に及ぶ労使紛争を解決につなげた現経営陣を支持し、TCSに経営から手を引くよう求めている。

     日本コンベヤ労組とJAM本部、NCは昨年、中央労働委員会で6年余りに及んだ労使紛争について和解した。謝罪文の手交をはじめ、救済を命じた大阪府労委命令の完全履行や、持ち株会社からの出向社員を組合員とするなど、完全勝利和解だった。

     TCS傘下の企業が株式を買い占め、2013年に経営への強い影響力を握って以降、一時金不支給や労働協約の一方的破棄などの組合つぶしが続いた。18年の現社長就任を機に局面が変わり、20年6月、争議に終止符を打った。

     上部団体のJAM本部によると、その後、労働協約は全て破棄前の状態に回復され、労使協議が定期的に行われるなど、労使関係は改善し、組合員も増加しているという。

     ところが今年4月、TCS傘下の企業が株主提案として、現社長と2人の取締役を外す「取締役候補者」を突然発表した。6月の株主総会をにらんだ動きだ。

     一方、NC経営陣はTCSとの業務提携解消を宣言するとともに、株主提案を否決するため議決権を行使するよう株主に呼び掛けるなど徹底抗戦の姿勢を示している。

     双方の論戦は激化。ついには直接の株主としては持ち分の少ないTCS本体が参戦し、現経営陣や労組への「反論」をウェブ上で行い始めた。

     日本コンベヤ労組は5月25日、「現社長の罷免(ひめん)を掲げるTCS案の提出は、あくまで労働組合つぶしに固執するTCSの報復である」として株主提案に反対を表明する声明を発表した。長年の労使関係破壊により、多くの優秀な人材が退職するなど、経営への打撃は計り知れないほど大きかったと指摘。TCSに対してはNCの株式を手放し、経営に一切関与しないよう求めている。

     産別のJAM本部も6月1日、同労組への全面支持を表明し、支援の輪を広げるとの中井寛哉書記長名の談話を発表している。

     

    ●リアルと空虚

     

     NC現経営陣とTCSグループ両社のホームページに示された主張を見てみると、労組への姿勢の違いがよく分かる。

     現経営陣は「TCSグループは(略)賞与カットなど、従業員の犠牲のもと、自社グループの利益ばかりを追求した結果、大規模な労働争議を招き、50億円規模の大型案件を失うなど、企業価値は著しく毀損(きそん)し、株価は下がり、無配に転落した。現経営陣はこれを立て直し、従業員とも和解して労働争議を終結させ、2期連続で過去最高益を達成し、(略)構造改革は軌道に乗ってきている」。近年の同社の経営の問題点に関する指摘は具体的だ。

     一方、TCSは「労働組合との関係は非常に重要と考えており、引き続き『調和』をめざす。特に過去の時代の対応に戻らないことを明言する。(略)従前の事前協議会に加えて、会社側としては経営メンバーも参加する『(仮称)労使協議会』も行い、組合提案についても議論し、最終的には調和をめざす」とした。

     過去の反省はなく、「調和」など曖昧な言葉を使うTCSの主張について、JAM本部の担当者は「組合の話し合いの要求に対し、(背景資本である)TCSは最後まで応じなかった」と言行の不一致を指摘する。

     そのうえで、「NC現経営陣の主張は、労使関係を尊重し、まともに経営すれば業績が上がるということを示している。これまでTCSによって、数々の買収先の組合がつぶされ、経営が荒廃させられてきた。今回TCSの影響を取り除けば、こうした問題を解決するリーディングケースになりうる」と話す。

     

    ●前時代の遺物

     

     敵対的買収や問題のある株主提案に対し、労組が社会的に発信する取り組みは過去にも行われてきた。

     村上ファンド関連企業による阪神電鉄の株式買い占めの際には、社内労組と私鉄総連が役員派遣に反対を表明。投資ファンドに経営権を握られ、労働組合つぶしが繰り返された東急観光では、連合が社内の第一組合を支援し、ファンド規制に一石を投じた。

     企業は株主の利益だけでなく、従業員や地域社会、取引先など利害関係人(ステイクホルダー)を大切にしなければならないというコーポレートガバナンス(企業統治)の考え方も普及している。さらには、人権、環境を重視する普遍的理念に基づく投資行動も活発だ。

     買収先の労組に執拗(しつよう)に攻撃を加え、労働者の権利を侵害する行為は、一般株主、従業員、サプライチェーン、地域社会にとって無益であり有害であることを、一連の動きは示している。