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    〈働く現場から〉障害ある労働者たちがスト/ジャーナリスト 東海林 智

     光学機器メーカー、オリンパスの特例子会社オリンパスサポートメイト(本社・八王子市)で働く、障害のある労働者たちが、まともな生活ができる賃金への引き上げを求めて終日のストライキを行った。

     労働者たちは「賃金が最低賃金レベルで生活が成り立たない」と訴えた。障害者枠で採用された労働者がストライキをするのは極めてまれだ。やむにやまれぬ思いで立ち上がった労働者たちの行動は、審議の始まった今年度の最低賃金の議論にも一石を投じることになりそうだ。

     ストは6月21日に終日取り組まれた。実行したのは、同社で働く労働者で作る労働組合「首都圏青年ユニオン・オリンパスサポートメイト分会」の組合員たち。要求は月額1万円の賃上げだ。これまで、ユニオンとして2万円の賃上げを掲げ、会社と団体交渉をしてきたが折り合わず、会社は〃一方的〃に月額2000円の賃上げを行い、組合の要求を蹴った。これにユニオンはストライキで対抗した。

     ストを決意するほど厳しい生活実態とはどんなものだったのか。同日、厚生労働省で記者会見した労組によると、月曜日から金曜日までフルタイムで働いて、賃金は月額約17万円。手取りにすれば14万円ほどだという。仕事の内容は、親会社オリンパスの契約書をもとに、書かれた内容をデータベース化する作業やドイツ語の論文の翻訳などの事務的業務だ。

     元々オリンパス本体で行っていた業務を、特例子会社を作り「外出し」したものだという。精神疾患を持つ組合員たちはこうした高度な仕事に取り組んでいる。

     賃金は、時給に換算すると1126円だ。東京都の最低賃金(1013円)と1割程度しか違わない。組合員は契約社員として入社したが、労組を結成して正社員化を勝ち取った。それでも最賃レベルだ。首都圏青年ユニオンの原田仁希委員長は「元々正社員がやっていた仕事をやっているわけだから、最賃近傍の賃金には合理的理由はない。障害者差別と言っても言い過ぎではない」と憤る。

     疾患を抱える彼らにとって、この賃金での暮らしは厳しい。組合員の梅井研一さんは「障害があるので医療費の年額は20万円を超える。病気に備え、わずかでも蓄えたいと考えるが貯蓄する余裕は一切ない」と話す。「会社は障害者雇用を『社会貢献』と言いはやすが、私たちは健常者と同じ仕事をしている。それなのに、賃金差があるのが〃貢献〃なのか」。

     組合員4人は全員一人暮らし。最賃近傍の賃金では一人暮らしも成り立たない。松村正美さんは「親からの支援があってやっと生活している。社会人として正社員で働いているのだから、親に心配かけないで暮らしたい」と唇をかんだ。

     障害者雇用の現状を見ると、障害者という理由で、最賃近傍で使われる。単純には言い切れないが、社会貢献を言いながら、その実、人件費削減に利用していると思われるような例が多数見られる。

     長年障害者枠で働く姉がいる女性は「最賃の減額特例で最賃以下の賃金で10年働いている。正社員と同じにしろとは言わないが、特例のせいで『障害者は安くて良い』みたいな雰囲気が充満している。障害者にも生活がある。そろそろ雇用の質にも注目してほしい」と話す。 

     スト当日、組合員が働く事業所(渋谷区)前で開かれたスト集会には、地域労組や支援者も含め約50人が駆けつけた。原田委員長は「大企業の特例子会社で労働者が貧困ラインの生活を強いられている。大企業が貧困を作っている。最賃の引き上げで誰もが生活できる賃金を実現したい」と訴えた。障害者に限らず、最賃への大企業の責任が問われている。

          ◎

     特例子会社 障害者の雇用に特別な配慮をする企業で、一定の要件を満たせば企業に義務づけられた障害者雇用の雇用率の算定で、親会社の雇用率に特例子会社の雇用者を繰り入れることができる。

     

    〈写真〉ストに突入した組合員が就業するビルの前で、賃上げを訴える支援者たち(6月21日、東京都渋谷区)