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    労働時評/最賃改定審議始まる/先進国並みと全国一律視野に

     最低賃金の改定審議が始まった。欧米ではコロナ禍でも最賃を引き上げた。日本も先進国水準へ大幅な引き上げが求められている。5年ぶりに目安制度の見直し審議も始まり、全国一律最賃も視野に格差是正も大きな焦点となる。

     

    ●大幅引き上げへ

     

     現在、最賃の全国加重平均は902円だが、徳島など16県の700円台を含め、40道県が平均未満だ。

     昨年の改定では、中央最賃審議会が改定目安を示さず、全国加重平均でわずか1円(0・1%)に据え置かれ、パートなどの賃上げが抑制された。

     連合の神津里季生会長は「今夏の最賃審議は重要だ。2年連続で引き上げ額が低位に据え置かれる事態は何としても避けなければならない。先進国から大きく引き離された水準からの脱却」を表明している。

     全労連の小畑雅子議長は「コロナ禍でも欧米は最賃を上げている。格差と貧困克服へ、生活できる最賃アップが必要だ」と強調し、生計費調査を踏まえ全国一律1500円の実現を迫っている。審議ヤマ場の7月8日にも大幅引き上げと格差是正を掲げて中央行動を展開する。

     

    ●政府や各界が改定表明

     

     政府は、最賃改定諮問で経済財政諮問会議の基本方針を踏まえ「諸外国の取り組みも参考に、地域間格差にも配慮しながら、より早期に全国加重平均千円を目指し、本年の引き上げに取り組む」と提起。2016年からの4年間で毎年3%台を引き上げた「これまでの実績」も踏まえるとしている。

     経団連の中西宏明前会長を含む、経済財政諮問会議の民間議員も「地方の最低賃金のボトムアップ」の意見書を政府に提出。日弁連も21年度の大幅引き上げと全国一律最低賃金制の実現などを求める声明を発表した。自民党の最賃一元化推進議連も、平均千円の早期実現や地方の底上げなどを提言している。

     一方、日本商工会議所などは、昨年同様「現行水準の維持」を政府などに要請しており、凍結反対の運動も重要となっている。

     

    ●海外の動向視野に

     

     今年の最賃改定では、世界各国の最賃引き上げや水準、制度を視野に入れているのが特徴である。

     各国の引き上げ状況は、イギリスが2・2%(円換算26・8円増・時給1359円)、ドイツ1・6%(18・4円増。1239円)、フランス0・99%(12・3円増。1338円)などである。米国もバイデン大統領が政府契約企業の最賃を15ドルに引き上げる大統領令に署名した。

     最賃の水準は各国とも1300~1500円である。賃金中央値に占める最賃の割合もフランスは61・4%と高く、イギリス55・1%、カナダ51・2%、ドイツ48・2%だが、日本は43・6%に過ぎない。

     

    ●平均賃金との連動を

     

     日本の最賃水準の低さは政府や自民党最賃議連なども認めている。要因には、決定基準の違いがある。フランスでは実質賃金上昇率の2分の1以上など賃上げと最賃を連動させている。ドイツも労働協約の賃金動向などに従うとし、イギリスも政府目標は24年までに賃金中央値の3分の2の水準と決めている。

     国際労働機関(ILO)の最賃条約も「国内の一般的標準賃金」「労働者の団体協約の賃上げを参酌」と規定し、労組の賃上げと最賃増を連動させている。

     ところが、日本は決定要素に「事業の支払い能力」が盛り込まれ、世界でも異例とされている。

     連合もかつて最賃水準は「一般労働者の50%」を打ち出し、全労連は「賃金中央値の60%を下限」とする資料も策定していた。春闘で企業内最賃の改定や特定最賃の拡張も重要となる。

     中澤秀一静岡県立大学准教授は「水準に関わる法改正も必要だ」と述べ、組織労働者の賃金水準引き上げと最賃引き上げを連動させた運動を示唆している。

     最賃水準と生計費との関係でも、中澤氏は全労連が22都道府県で行った調査で時給1500円以上となったことを紹介し、「全国どこでも生計費に格差はない。全国一律最賃の根拠になる」と述べた。

     

    ●中小支援に関心高まる

     

     コロナ禍の最賃引き上げでは、中小支援の拡充が従来以上に重視されている。

     連合や全労連、日弁連、自民党最賃議連とも内容はほぼ共通している。具体的な施策は(1)社会保険料の事業主負担分の軽減(2)業務改善助成金の拡充(3)賃上げ上昇分の取引価格への転嫁(4)中小支援財政の充実(5)公正取引の強化――などだ。自民党議連は財源として、大企業の内部留保450兆円の0・5%課税による約2・2兆円の活用も提言している。

     海外では、フランスは企業の社会保険料の軽減、韓国には最賃引上げ事業主(雇用者30人未満)に対して1人につき時給1500ウォン(約130円)を直接支給する雇用安定資金支援制度などもある。

     

    ●「地方の乱」も

     

     今年は5年に1度の「目安制度のあり方に関する全員協議会」が開催される中での最賃改定となる。

     最高額はAランクの東京の1013円で、下位Dランクの沖縄など792円との格差は221円。地方から都市部への若者の流出に拍車をかけている。その打開へ、岩手、沖縄など352自治体が最賃引き上げや全国一律を決議する「地方の乱」も起きている。

     日本のような地域別の最賃は世界で9カ国にすぎない。59カ国が全国一律最賃制だ。日本も全国一律の実現を視野にランク間の格差是正が求められている。(ジャーナリスト・鹿田勝一)