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    全ランク28円引き上げ/最低賃金改定目安/全都道府県で800円越えに

     厚生労働省の中央最低賃金審議会は7月16日、今年度の地域別最賃改定での引き上げ目安を答申した。A~Dランクの全ての区分で同額の28円とした。現行最賃額に目安を上乗せすれば、全国加重平均は930円で、全ての都道府県が800円を上回ることになる。

     目安を示さなかった昨年から一転、過去最大の引き上げ幅となった。目安の引き上げ率は3・1%。現行最賃に目安を足せば、最高額は東京の1041円、最低額は820円となる。

     目安審議で使用者側はコロナ禍で飲食や宿泊など一部産業での厳しい業績を理由に据え置きを主張。労働者側は「ナショナルミニマムにふさわしい水準への引き上げ」やエッセンシャルワーカーの処遇底上げなどを主張し、「40円」の引き上げを求めた。

     両者の意見の隔たりは大きく、今年も公益見解でまとめた。ワクチン接種が始まるなど先行きを見通せなかった昨年との違いや、失業率が3%以下で推移していること、経済の好循環実現、非正規労働者の底上げが必要などとして、28円の引き上げとした。

     使用者側の委員が、目安小委員会の結論を本審に報告することについて採択を求め、「抗議」の意思を表明するという異例の展開となった。

     審議に先立ち、政府は骨太の方針で、コロナ禍以前の引き上げ実績を踏まえ、地域間格差に配慮しながら、より早期に全国加重平均千円を目指し、引き上げに取り組む考えを示していた。

     今後、各都道府県の地方最賃審議会で金額改定審議が始まる。10月1日の発効を目指すとともに、いかに上積みを図るかが労働側の課題となる。

     

     〈解説〉「千円」後をどうする?

     

     政府の表明通り、「コロナ以前」の引き上げに戻した。0・1%に抑えた昨年の改定への強い批判が根底にある。衆院選挙を前に所得向上政策をアピールしたい政府の思惑も作用した。「全国加重平均千円」の到達後の目標を考える時期を迎えている。

     昨年は首相が「雇用を最優先」とし、中央最賃審は目安を示さなかった。コロナ禍の下で働くエッセンシャルワーカーの多くが最賃近傍であり、その賃金が据え置きでいいのかという怒りの声が各地で吹き荒れた。

     一方、使用者側は一部産業の苦境を理由に、今年も引き上げに強く反発した。これに対し、政府は春から最賃引き上げを打ち出した。総選挙を目前に、所得向上政策によるデフレ脱却をアピールしたい思惑があり、「コロナ以前」の引き上げに戻した。

     地域間格差の縮小の課題については、現行制度の限界が浮き彫りになった。低額道県のC、Dランクの上げ幅を都市部のAランクより上回らせなければ格差は縮小できない。今回の審議では全ランク同額が限界であることを見せつけられた。

     今回の3%余りの引き上げをあと2回繰り返せば、民主党政権時以来の目標である「全国加重平均千円」に手が届く。問題はその後をどうするかだ。加重平均千円では「働く貧困層」の解消には程遠い。800円台の地方も温存されることになる。

     欧米諸国では、労働者の賃金平均値の50%、中央値の60%という国際指標や、必要な生計費を踏まえた、最賃の水準設定を目指す動きが強まっている。

     働く貧困層を解消するために、国が最賃の中期目標を定め、中小企業支援のための税制や経済政策など、引き上げのための必要な手立てを講じる――。非正規労働者が雇用労働者全体の半数に迫る今、最賃引き上げのための総合的な政策を、労組や政党が考えるべき時期を迎えているのではないだろうか。

     

    〈表〉中央最賃審議会の目安と現行最賃額