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    労働時評/コロナ後の社会と運動を討議/全労連、運動の再構築へ

     全労連が新たな運動方針づくりへ向け、「憲法が生きるコロナ後の社会と運動の飛躍」の討議を呼びかけている。来年7月の定期大会に向けての先行討議であり、黒澤幸一事務局長は「全組合員参加の論議で労働運動の再構築を目指したい」と語っている。

     

    ●全労連の強化へ

     

     問題提起では、コロナ危機の社会の転換方向をめぐる激しいせめぎ合いのなか、全労連に期待される社会的な役割と課題はこれまで以上に高まり、新たな飛躍が求められていると指摘。併せて、コロナ危機で浮き彫りとなった新自由主義からの社会・経済・政治の転換には、労働組合の社会的影響力の発揮が鍵になると強調している。

     また、結成32年を迎え、ナショナルセンターの強化へ綱領で定める「すべての労働者・国民とともに切実な要求実現」「労働戦線統一の母体」など歴史的役割の発揮を強調しているのが特徴である。

     

    ●四つの問題提起

     

     運動強化へ春闘再構築や組織拡大など四つの「問題提起」を行っている。

     一つ目は、産別の強化・拡充である。行動綱領が示す「企業内労働組合の弱点克服」を提起。職場を基礎にした産別統一闘争と地域闘争を強化し、全国的な統一闘争の組織などを挙げている。企業横断的に影響力を高める「組織のあり方」などを提起しているのも注目される。

     二つ目は、国民春闘の再構築を提起した。

     春闘は企業内組合の弱点克服へ産別や地域に団結して賃金の相場形成・波及を目指す闘いであると強調している。

     財界・大企業による春闘破壊攻撃や大企業労組の労使協調、企業内主義化などの問題も挙げた。

     一方、労働組合の総体的な力の低下やストが成立しないなど厳しい中でも前進している事例もあり、その検証を求めた。

     さらに賃上げ・労働条件改善など切実な職場、地域の要求を「どうやって実現させるのか」「理念だけでなく具体的な方策の検討」を強調し、産別春闘や地域春闘の再構築を提起した。大企業の内部留保活用でも論議を呼びかけている。

     雇用構造の変化にも言及。日本的雇用(年功賃金、終身雇用)の崩壊と、非正規労働者と「雇用によらない働き方」が、就労者の半数近くを占める中での春闘や労働運動のあり方の検討も提起している。

     

    ●全労連版組織戦略を検討

     

     三つ目は、組織拡大と学習・教育活動の再構築。全労連の組合員は1998年の最高153万人から21年には97・4万人に減少した。

     対策として産別と地方・地域組織一体の活動やローカルユニオンなど地方・地域組織の強化の教訓に学び、「組織化のスキル構築と警鐘」も提起した。活動家育成の「全労連版の組織戦略」の検討も提起している。

     四つ目として、飛躍を目指し魅力ある要求・政策づくりを例示した。

     その内容は(1)賃金の社会的規制へ全国一律最賃1500円の実現と、産別・職種別最賃(2)女性の賃金改善と、均等待遇、同一労働同一賃金の推進(3)労働時間の短縮へ1日6時間働けば暮らせる社会(ヨーロッパ並み)(4)「公共の充実」(公務、医療、介護、福祉、公共交通、物流、卸小売、農林水産)で「再公営化」を提起――など。

     

    ●寄せられる期待の声

     

     問題提起には期待の声が寄せられている。

     7月の評議員会では「全労連結成32年。企業内組合の弱点克服や組織拡大など働く者の要求実現へ組織変革への転機に」(北海道)、「単産、地方を有機的に機能させ、全員参加の運動構築へ全国的な交流も」(秋田)、「新自由主義の闘いと方向性の認識は重要だ」(九州ブロック)との発言があった。国公労連や全教も賛同を表明している。

     黒澤事務局長は検討チームの設置や地方労連事務局長会議も新設し、豊かな内容にする方向を表明した。

     

    ●職場活性化が全体の課題

     

     いくつかの論点がある。

     例えば、企業別組合の弱点克服と産別強化、統一闘争との関係だ。企業別組合については学者、活動家、労働界を含めて批判論や擁護論など論争がある。討議では具体的な課題で検討することが必要だろう。

     検討課題では、企業別組合と産別の、横断的運動のあり方と交渉方式、加盟形態の検証である。欧州の運動との比較も必要だ。

     春闘再構築では、金属大手の企業主義・共闘軽視の打開へ向け、今年初めて金属大手の前に集中回答日を設定し成果を上げた「春闘先行」の取り組みの強化拡大も重要課題だ。統一闘争で産別間のばらつき克服も課題となろう。

     組織拡大では毎年約9万人を拡大しているが、さらなる拡大が課題。個人加盟のローカルユニオンは42都道府県191ユニオン、組合員9376人で、その拡大も重視されている。

     職場の問題も重要課題。原案では「職場組合員の結集、地域の統一行動に結集する力は組織的な後退傾向にある」と指摘していた。

     連合もこれまでの職場総対話では「成果主義で職場は深刻」「組合離れ」「合理化で人手不足」「役員のなり手がいない」など深刻な事態が浮き彫りとなった。労働界共通の職場活性化は喫緊の課題である。

     新自由主義の転換では、連合の神津里季生会長も「新自由主義は大きな災いをもたらしている」と述べ、経済社会の構造変革を呼びかけている。政治変革へ労働界や野党との共同拡大も重要課題となる。(ジャーナリスト・鹿田勝一)