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    インタビュー/菅政権の1年をどう見る・上/タガが外れた政治に/中野晃一上智大学教授に聞く

     安倍晋三前首相が政権の座から降り、菅政権が発足してから1年になる。この間の政治をどう見るか。中野晃一上智大学教授(政治学)は「安倍政権以降、タガが外れた政治が続いている。その本質は変わらないし、ある意味、悪くなっている」と指摘する。(インタビューは8月26日)

     

     ――政権発足から1年。何をしたいのかが見えませんでした。

     菅さんは安倍前首相とは違って、総理になる準備があった人ではない。良くも悪くもビジョンはない。安倍さんのような歴史修正主義やナショナリズムのようなものがあっては困るのだが、そういうものはなく、ただ「空っぽ」だというのが1点目の特徴だ。

     2点目は政権基盤がないということ。安倍さんや麻生太郎財務相のように世襲の国会議員ではなく、派閥にも属していない。自民党の4大派閥の支援で総理になれたので、最大派閥出身の安倍さんだったり、二階俊博自民党幹事長だったり、自分を総理にしてくれた人たちに配慮しなければならない。

     だから、安倍さんが宿題として残した「憲法改正」を口にしたり、批判の強かった、敵基地攻撃能力や東京五輪、二階さん肝いりの「GoToキャンペーン」を進めたりしていた。そうしたことが分かりにくさを生んでいる。

     3点目が、総理になった以上、「本格政権を作りたい」という欲が出てきたということだ。では何をするのかというと、新自由主義的な発想が元々あって、中小企業の淘汰(とうた)と最賃引き上げを提唱するデービッド・アトキンソン氏から知恵を得たりしている。あとは総務相時代の経験から、携帯電話料金の値下げや地方銀行の整理、デジタル庁創設など総務省関連の政策が多い。

     独自カラーを出したいが、有効なコロナ対策を打てず、だらだらと悪い状況が続いている。

     

    ●説明責任の欠如

     

     ――問題点は?

     「安倍なき後の安倍内閣」に、居ぬきで官房長官から総理大臣に横滑りした。副総理も幹事長も留任。そういう体制なので、特に安倍政権以降、問題になっていた「アカウンタビリティー(説明責任)のなさ」が挙げられる。市民に対して説明責任を果たさない。果たすつもりもない。全くタガが外れた政治が続いている。その本質は何も変わっていないし、ある意味、安倍さん以上に悪くなっている。

     ――政治不信が高まります。

     その通りだ。難しいのは、政治不信が高まるのは本来大問題なのだが、いまや自民党が政権にとどまるための必須の条件となっている。今の政治にうんざりして棄権する人が増えるほど、自民党への反対票を抑えられる。

     一方で、メディアは政府への批判と同時に、「野党もだらしない。こんな政府を放置しているのは野党がだめだからだ」と責任をすり替える。人々が政治に期待しなくなれば、今の政治を温存できるということを、政権中枢は分かってやっているのだと思う。

     

    ●官僚制の劣化が進行中

     

     ――新型コロナ感染症への不十分な対応で批判が高まっています。

     感染症を甘く見ているのだろう。ワクチン接種を広げさえすれば大丈夫だと、万能薬であるかのように勘違いしている。より正確な科学的知見や、デルタ株への変異など新たな知見が入っていたのに、ワクチン一本やりで進んだ。そういうムードをつくり「やってる感」を見せれば世論を引き込めると思っているのだろう。

     それと関連して言えるのは、「バカ殿」のような首相が2代も続いたことで官僚制が劣化しているということだ。正確な情報、不都合な事実を上にあげず、聞こえがいいこと、首相が求める情報を上げるようになり、実態をつかめなくなっているのだろう。

     甘い情報だけ上がり、甘い判断が続く。世論の強い批判については、「誤解している」ぐらいにしか思っていないのではないか。(つづく)