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    インタビュー/菅政権の1年をどう見る・下/特権階級の独善支配続く/中野晃一上智大学教授に聞く

     首相のお膝元である横浜市の市長選挙で、首相一推しの候補が敗れ、激震が走った。そんな中、自民党総裁選が始まる。一方、野党共闘は勢いづくが、先行きは混沌(こんとん)としている。秋には政権選択の衆議院選挙が行われる。中野教授は、特権階級による支配の継続か、憲法が生き多様性が生きる社会にするか――の選択と指摘する。

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     ――総裁選が進んでいます。何か変わるでしょうか?

     自民党としてみれば、総裁選を衆議院選挙の前に行うことで、民意が反映されたという形にしたい。テレビをジャック(占拠)して、総裁選をにぎやかに演出し、信任を得たという形に見せかけようと考えていたと思う。

     ところが、菅さんでシャンシャンと決まる状況ではない。とはいえ、誰かに首をすげ替えるということになれば、権力闘争が激烈になり、非常に醜い姿をさらすことになる。そういうこともあって、菅さんを後継に据えた派閥の領袖たちはどうしていいか分からず、混乱している状況なのだろう。

     菅さん続投で仕方がないと思いつつ、横浜市長選の結果など、党内では「これじゃ選挙はもたない」との声もあって、すくんでいる状況ではないか。非常に内向きの自民党での権力闘争が始まったといえる。

    ●今の政治の継続か否か

     

     ――一方で、野党共闘も、連合が事実上足を引っ張る形となり、混沌としています。

     野党共闘はかなり効果があるので、「失敗させたい」「分断させたい」という介入や嫌がらせがいろいろな筋からやって来る。その手に乗ってしまうと、結局今の政治が続いてしまう。

     コロナ禍でひどい生活を強いられ、あえぎ苦しんでいる労働者や市民のことを考えれば、自公政権とは異なる選択肢を提示し、政権交代につなげる動きを、協調しながらつくっていくことが必要だ。

     野党共闘の難しさは、異なる考え方を持つ政党や、市民、労働運動が協力し合うことにある。どうしたって不協和音や意見の不一致は起きる。そこは大人になって、「現状はこんなにひどいのだから、当面はこういう形で協力する」と合意することが大事だ。

     自民党と公明党は20年以上連立政権を続けている。政策や政治理念が同じかというと、そうとは言い切れない。そのことは問題にされず、野党だけが「野合だ」「バラバラだ」などと揶揄(やゆ)されるのは、極めて不公平だし、政治をおとしめるやり口と言っていい。

     臆せず、ひるまず、冷静に一致点を探り協力すること。この努力をせず今の政治を続けることになれば、それこそ労働者や市民に申し訳が立たないと思う。

     

    ●多様性で経済の回復を

     

     ――秋には必ず衆議院選挙があります。与野党の対抗軸は?

     説明責任のない特権階級による独善的支配になっているのが、今の日本の現実だ。自民党の2世、3世の世襲議員や、そこに群がる財界や官邸官僚たち。そうした一部の特権的なお仲間たちが、ある意味、国家に巣食い、食い物にしている状況にある。

     十分な感染対策を怠りながら東京五輪を強行して、医療崩壊が起きてしまい、救急車で運ばれもせずに亡くなる人が相次いでいる。こういう状況が世界第3位の経済大国の日本で起きていて、政権が吹き飛ばないというのは、かなり異様なことだ。

     森友・加計学園問題、「桜を見る会」疑惑、数々の汚職にまみれ、棄民政策のようなコロナ対応を行い、カジノ推進を経済政策だと考えるような政治が続けば、日本は没落の道をたどるだろう。 

     これに対し、(立憲民主や共産、社民などの)立憲野党の側は、憲法の理念に沿って、命や暮らしを優先させ、そうすることで経済を回していくという政策だ。

     具体的には、(社会保障の拡充や最低賃金引き上げなどの)再分配政策や、医療や教育の拡充、選択的夫婦別姓や女性の権利、性的少数者(LGBTQ)の人たちへの差別撤廃など、社会の多様性を大切にすることで活気のある経済をつくっていく。一人一人が大切にされ、自己実現できるよう、権利の面でも経済の面でも保障することが、日本の未来をつくることになる。