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    〈インタビュー〉日本は世界から置き去りに/岸田首相の最賃目標/中澤秀一・静岡県立大学准教授

     岸田文雄首相は8月末、地域別最低賃金の全国加重平均千円到達後の目標について、「2030年代半ばまでに全国加重平均で1500円をめざす」と表明した。この目標をどう見るか。28都道府県・約5万人の労働者の最低生計費試算調査(以下、生計費試算調査)を監修した中澤秀一・静岡県立大学准教授に聞いた。

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     ――首相が示した最賃目標をどう評価しますか?

     中澤 率直に言って岸田首相の感覚は実態とずれていると言わざるを得ない。十数年後、先進諸国の最賃は2千円を超える。差が埋まるどころか、日本は置き去りにされるだろう。

     首相が「1500円」という金額を掲げたのは、各地の労働団体が労働者の生活に必要な金額を細かく集めて、「若者がふつうに生活するには時給1500円が必要」という生計費試算調査結果を示し、最賃の引き上げを世論に訴えてきたからだと思う。地道な運動が社会に浸透し、「1500円」という金額がシンボリック(象徴的)に使われたと考えている。

     そのうえで、目標達成の時期が問題だ。賃上げを加速させるかのように最賃目標が示されたが、毎年の上げ幅は今年の改定率とほぼ変わらず、物価高は考慮されていない。

     政府は労務費上昇分の価格転嫁や、取引適正化などに触れているが、効果的な具体策は見えない。新たな中小企業支援策を打ち出すわけでもなく「企業におまかせ」の姿勢に見える。

     ――これまでの生計費試算調査結果から、この目標設定をどう捉えますか?

     コロナ禍に続く物価高で、最近の調査では若者がふつうに暮らすために必要な時給は1600~1700円に上昇している。1500円は控えめな数字だ。

     生計費試算調査の結果は、最賃が最低額の岩手、最高額の東京でもほぼ変わらず、「全国どこでも時給1500円以上が必要」ということを示している。地方は自動車の保有が必須であるため都市部との生計費の差はない。

     28都道府県の生計費試算調査を十数年、監修してきた。振り返ると、携帯電話料金など通信費が下がる一方で、水道光熱費や食費が上がっている。コロナ禍の下では従来と比べて5%高くなっている。できるだけ速やかに時給1500円を達成すべきだ。

     ――少子化対策にもなると主張しています。

     生計費試算調査では30代カップルで子どもが2人いる世帯の生計費も聞いている。2人合わせた年収は500万円台後半が必要、という結果になった。1人当たり年270万円以上必要で、年1800時間で時給換算すると1500円以上になる。

     結婚するか、子どもをもつかは、それぞれの考え方が尊重されるべきで、他者が介入すべき問題ではない。しかし、「結婚したい」「子どもがほしい」と願う人が低賃金を理由に諦めざる得ないのは問題だ。最賃が全国どこでも1500円以上になれば、結婚や子どもをもつという選択肢が増え、結果的に少子化を防ぐことになる。

     ――今年度の最賃改定をどう見ますか?

     中央最賃審の目安に上積みした地方最賃審のうち、労働団体が生計費試算調査を行った地方が約6割を占めている。8円上積みした佐賀をはじめ、6~4円上積みした、長崎、大分、鹿児島、沖縄は2019年~21年に、高知と兵庫は昨年6月に調査結果を発表した。高知は5円プラス、兵庫は1円上積み(1001円)した。

     生計費試算調査を行った労働団体は必ず、地賃の改定審議に調査結果を提出している。意見陳述で調査結果を示して大幅引き上げを訴えた労組も多いと聞く。エビデンス(根拠)が上積みを後押ししたのではないか。

     今後、全国一律制を求めると同時に、最賃1500円を「十数年先ではなく速やかに実現すべき」という運動を全国規模で繰り広げることが大事だと思う。